
1953年、毛沢東主席は共産党中央政治局のある会議で「中国の世界に対する貢献は大きく、中国医学はその一つだと思います」と語ったことがある。
火薬、製紙、印刷術、羅針盤という四大発明のほかに、中国医学は中華民族が世界に貢献した5番目の発明である。しかし、四大発明は簡単に模倣できる技術だが、中国医学は典型的な中国文化の産物である。それを応用するには、まず伝統的な中国文化を理解し、会得しなければならない。
中国医学は深遠で神秘的な学問と見られがちだが、実は、そうではない。数千年もの間、中華文明と共に発展してきて、東方哲学の一部として民族文化のなかに深く根を下ろしており、さらに病気予防や健康のための手段として中華民族を守り、人々の生活のなかに常に存在してきたものである。
文化と共に伝承
葉天士は清代の名高い医者であった。あるとき、一人の女性が難産となり、多くの医者が診察し薬を処方したが、何の効果も現れず、とうとう葉天士が呼ばれた。葉天士は脈をとってから、ほかの医者が書いた処方を見て、それに桐の葉一枚を追加した。その日はちょうど旧暦の立秋で、妊婦は桐の葉の入った薬を飲むとたちまち赤ん坊を産み落とした。
この中国医学史上の有名な逸話は、中国医学の理論体系における全体観念と弁証論的治療法の基本的特徴を示している。画竜点睛を行った葉天士の処方は、天、地、人を包括する全宇宙観をもち、一枚の桐の葉によって他の薬の効果を充分に発揮させたのである。
きわめて東方的な思考パターンを持つ中国医学は、終始、思想が医療技術を圧倒する。衛生部の王国強副部長が語ったように、中国医学を振興するには、文化から着手しなければならない。
「わが国オリジナルの文化や科学の中で、もっとも代表的なものは医学です」と、北京御生堂中医薬博物館柏楊館長は言う。彼は他の学者と同じように、東方科学のもっとも顕著な特徴は、その全体を貫く理念であると考える。その理念とは、中国医学の気一元論、太極陰陽二元論、五行全体の相克制化に関する学説である。中国医学におけるこれらの学説は、天、地、人を貫くのみならず、生理と病理、健康と疾病、理論と治療法、漢方薬、針灸、マッサージ、気功、飲食、摂生の各方面をも貫く。
中国医学の特徴は、疾病として現れたすべての情報を総括できることだ。つまり、一つの治療案のなかで個々にも配慮して全体を考え、一気に問題を解決する。漢方薬の成分は具体的にはあいまいかもしれないが、全体として対応するところははっきりとしており、治療効果も明らかである。
独特な治療方法は、独自の思想•思惟から生まれる。北京中医薬大学の張其成教授の紹介によると、中国医学の形成は、中国文化、特に中国哲学と切っても切れない関係がある。中国医学の哲学とは、医者の生命に対する根本的な見方、中国医学の生命に対する考え方を指し、中国医学と西洋医学とが異なる基本的な特徴である。中国医学では、人体は小さな宇宙、宇宙は大きな人体だと考えられている。天とは、天地•宇宙を指し、人とは生態系における人間で、人間と天地の気は相通じている。中国医学では人間を一つ一つの器官や細胞、遺伝子からなる生物として考えない。人を有機的な全体として捉え、この全体はまた宇宙という大きい全体を構成する小さな全体で、宇宙の情報は人間に影響を与え、人間の情報は宇宙からの情報を反映している。人体の内部にはさらに小さな全体があり、どんな小さな全体にもその人間全体の情報が反映されている。
複雑で特種な医療システムとして、中国医学は医療科学の要素を持ちながらも、人文•社会ないしは心理学的な要素も備えている。これは、中国医学が千百年もの間ずっと、人体の健康に対して最大限の人文的関心を払ってきたことを示している。西洋医学の聴診器、血圧計、レントゲン、CTスキャン、核磁気共鳴画像(NMR)などの医療設備に頼った技術的な診断と違い、中国医学は芸術に近い。脈をとり、処方箋を書く中で、医者個人の経験やインスピレーションが生き、陰陽協調、調和統一などの哲学的な考え方も発揮される。
中国医学の哲学的基礎として、陰陽の考え方がその根本にある。伝統的な中国医学の理論では、陰陽は天地の道であるだけではなく、万事をつかさどる、すべての変化の原因で、中国医学のもっとも核心的な基礎でもある。そのため、「西洋医学は病気の症状を治し、中国医学は病気の根本を治す」といわれる。
中国医学では健康長寿の秘訣を「和は陰陽にあり、調は四時にある」という。『内経•素問•四気調神大論編』には、「それ四時の陰陽は万物の根本なり。聖人の春夏陽を養い、秋冬陰を養う所以なり」と書かれている。伝統的な中国医学では、陰陽の協調によって体は健康になり、人は四季の陰陽の変化に従って体内の陰陽を調整しなければならない。この規律を背くと、体の陰陽のバランスが崩れ病気に罹やすくなると考えられている。
中国医学のもっとも重要な健康理念は「自然との調和」である。摂生にしろ、臨床治療にしろ、中国医学は人間と自然との調和を保つことを非常に重視している。同時に、人体は五臓六腑を中心に、経絡システムで体全体が有機的に結びつけられ、上下の連動、内外の貫徹、全体協調という、統一された有機体を形成する。内臓の疾病は経絡と五行の関係の変化によって起こり、逆に五行の間の相生相克関係によって疾病を治療できる。治療の目的は人体の陰陽のバランスを回復させることである。
中国医学は、疾病治療中に人体の正気(抵抗力)がもつ役割を特別に強調している。医者は臨床において病気の原因を取り除くほか、人体の正気を調節することによって、邪気の侵入や疾病のさらなる悪化を防止する。つまり、いわゆる「扶正袪邪(正気を高め邪気を取り除く)」の治療法である。この発想は、「不変を以って万変に対応する」という優れた哲学だと言っても過言ではない。
治療効果によって証明する
2008年3月5日、AP通信社の『姚明選手回復の秘密兵器、漢方薬』というタイトルの報道が、アメリカでセンセーションを引き起こし、多くのマスコミが論評を行った。地元のマスコミは、姚明選手が手術した左足を中国医学で治療することを強く非難していた。インターネットで「いかなる臨床実験でも中国医学は科学的なものと証明されていない。中国医学はシャーマニズムと呼んだほうがふさわしい」と書いた人もいる。
それに対して、姚明選手の治療に自ら参加した国家体育総局成都運動創傷研究所の張世明所長は「中国医学の整骨•内科での治療効果は、中華民族の五千年の歴史ですでに証明されています。これらの誤解が生まれたのは、悲しいことだと思います。中国医学は世界でも90あまりの国家で承認されています。このように言う人たちは、中国医学をまったく理解していないのです」と、強く反駁した。
中国医学へのいろいろな誤解に対して、中国政府は中国医学を支持する姿勢を表明した。しかも、伝統的な医学を発展させることを憲法に書き入れようとしており、共産党第十七期全国大会の活動報告でも、「中国医学と西洋医学をともに重視」と再び強調した。中国のメイン局である中央テレビ局の科学教育チャンネルは、この4月に史上有名な医者を取り上げたシリーズ番組「千古中医」を放映した。
中国医学は、中国では国宝と見なされている。それは中国の貴重な文化財と知的財産としてだけではなく、病気治療の実用的価値と他に例をみない臨床効果のためでもある。中国医学が衰えず数千年も続いてきた理由は、結局、その卓越した治療効果にあるのである。
中国医学は非典型性肺炎(SARS)流行時に、無視できぬ役割を果たしている。専門家は、中国医学と西洋医学とを結びつけた治療方法が安全だと一致して認識している。世界衛生機構(WHO)の中国駐在のハンク•ベケダム代表は、中国の伝統的医学は、グローバルな医療体系における非常に価値のある研究分野として終始WHOに認められており、中国医学を社会全体の医療体系に組み入れた中国の方法は、他国の手本になると語っている。
漢方薬をエイズ患者に投薬すると、免疫力に改善がみられるため、現在中国の6000人以上のエイズ患者が、中国医学による治療を受けていると、北京広安門病院エイズ病臨床治療センターの危剣安主任は紹介する。中国医学の早期治療を受けた患者は、人体の正気が刺激され、免疫力が高められたという。
さらに、ガン治療の中で中国医学は、腫瘍を縮めガン細胞を殺すのではなく、体全体の総合的な調整によって患者の生存の質を改善し、不快な病状を取り除き、放射療法や化学療法による副作用を減らし、患者を延命させる効果をもつという。
専門家の研究によると、中国医学はウイルス感染による病気、機能失調による病気、老年性•慢性の病気、整骨科、皮膚科、病因不明あるいは病因が複雑な病気、心因性病など12種類の疾病の治療において、明らかな治療効果がある。
中国医学科学院の陸広莘研究員によれば。中国医学は「病気治療」を中心にする医学ではなく、天然痘、はしか、B型脳炎などの治療においても、ウイルスを殺そうとしない。中国医学は病気の原因を取り除くことにではなく、人体自身の潜在能力を発揮させることに重点を置いているのである。WHOの統計によると、人類の長寿に影響する要因として、ウイルスへの抵抗を主とする現代医学がもつ影響力はたった8%であるという。これがまさに中国医学の長所であるといえる。
優れた医者であれば、現代的検査設備は要らず、体の表面を診て内部の病気を診断することができる。医者は病気の初期に診断できるばかりでなく、あらかじめ病気を取り除くこともできる。つまり、「中国医学はまだ罹っていない病気を治す」のだ。これが、中国医学の最高の境地であり、中国医学の命でもある。
中国医学の長所は、「上手な医者はまだ罹っていない病気を治す」、「ほどほどの医者はまもなく罹る病気を治す」、「下手な医者はすでに罹った病気を治す」という治療法にある。
心電計、血圧計測器、血液化学分析機、遺伝子検査などの技術がない1600年前に創り出された中国医学は、現代医学を当惑させている。奇妙なのは、人体を有機的な全体と見なしたことであり、五臓六腑の健康と病気は、血液や唾液、精液などの媒介によって体の表面に現れてくる。優れた医者は、脈拍、舌苔、眉、髪の毛、皮膚、手相、爪の色など表面上の微かな変化から内部の病気を診断できる。中国医学のこの理論は決して「空中の楼閣」ではなく、自然万象の規律を源にしたもので、互いに影響しあい、表裏となっている世界の物事の如きである。人体の外部にある髪の毛、爪、皮膚、耳などのすべては、体内の状況を表すのだ。
中国医学は健康長寿の秘訣を「恬淡虚無、真気これに従う。精神内守し、病安これに従う」としている。つまり、心がゆったりとして雑念がなければ、体内の「精、気、神」は複雑な物質世界に誘惑されず順調に運行できる。こういう境地になると、おのずから邪気に襲われない。
中国医学の思想と治療効果は、病気診療だけでなく、さらに生命のすべての過程に現れる。中国古代の思想家•教育家である孔子は、50歳に至らない者は『周易』を読むな、と言った。なぜならば、見聞が浅く、苦難をなめた経歴のない者は読んでも理解できないからである。中国医学もこれと同様である。奥深い中国医学の理論は、豊かな臨床経験を必要とするばかりでなく、その奥深い道理を理解できるだけの豊かな人生経験も必要となる。
中国の伝統的な観念では、「よき大臣にならなければ、よき医者になれ」という。深遠な中国医学理論は、病気を治療するばかりでなく、人生のさまざまな事業を助けることもできる。そこに秘められた思想や文化的な思考方式は、現代の社会でも依然として指導的役割を持っている。ここ数年、多くの政治家、成功したビジネスマンが、仕事の余暇に中国医学を研究するようになっている。中国首富ネットの丁磊総裁は、名医鄧鉄濤氏に師事し、中国医学を研究している。国務院の副総理である呉儀女史は、政界を退いた後は伝統医学研究に打ち込みたいと言っている。
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